フリーターから陶芸の道・食器作家へ 「ちょうどよくてちょっと良い」作品を

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五條悠斗(ごじょう・ゆうと)/陶芸家(食器作家)

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大阪府八尾市にて「ちょうどよくてちょっと良い」をコンセプトとした、モノクロカラーを基調とした使いやすく温かい陶器の製造販売を行う。

ホームページ
http://sue-ceramic.jimdo.com/


 

「陶芸を生涯の仕事にする!」という決意を胸にして、腹をくくって故郷の静岡県を飛び出してから、一心不乱に陶芸と向き合ってきました。自身の陶磁器ブランド「.Sue」を立ち上げて、近年では展示会に出品すれば、一定の評価を受けるようになってきました。
食事をするにしても、プラスチックや100円均一の器では、どこか味気ないです。「.Sue」の器をより多くの人に知ってもらい、皆さんの食卓を豊かなものにしていきたいと思っています。

 

 

生涯の仕事を考え悩む日々 出した答えは陶芸家

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現在は食器作家として活動している私ですが、のらりくらりとフリーターをしていた時代がありました。静岡県で生まれ育ち、専門学校を卒業した後は、一般企業に就職するわけでもなく、アルバイトをして生計を立てていました。

アルバイトからそのまま正社員となって働くという選択肢もあったのですが「一生続ける仕事」という目線で考えると、もっと夢中になれる仕事がいいと思ったのです。

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そんなときに、たまたま京都にある職業訓練校「京都府立陶工高等技術専門校」を見つけました。陶芸を勉強する学校なのですが、昔から何かを作ることが好きだった私は、「陶芸を生涯の仕事にしよう」と決意しました。

まさに自分の生きる道が二手に分かれているようでした。一方はフリーターを続ける道、もう一方は陶芸の道があり、私は陶芸の道を選択しました。人生の転機となったポイントでもあります。

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職業訓練校では、1年間みっちりとろくろを回しました。来る日も来る日もろくろの練習。学校は朝の9時から始まり夕方5時に終わります。それからは夜の11時までアルバイト。休み時間も十分に取れない日々の繰り返しでしたが、苦痛ではありませんでした。当時はやる気に満ち溢れていましたので、しっかりと勉強して学んだことを全て吸収したいという思いが、なによりも勝っていました。

 

 

窯元に就職してプロの技を拝見 技術を磨き独立へ

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職業訓練校を卒業後は、先生からの紹介もあり、同じ京都府にある窯元に就職しました。実はこのときから既に、将来は独立したいという気持ちを胸に秘めていたのですが、もっと自分の技術レベルを向上させるために、現場で修業を積むことにしました。

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そして、実際に窯元でベテラン社員の仕事を目にすると、今まで学校で習ってきたことは序の口でしかなかったことを思い知り、現場で働く職人のレベルの高さを感じ取りました。仕事の段取りから作業のスピードまで、自分とはまるで違う。失敗して怒られることもありましたが、必死になって仕事を覚えていきました。

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仕事中は同じ形の湯のみを何百個と作ることがあり、その作業をずっと続けていくと、頭では別のことを考えていても自然と手が動いて形になっていきます。実は陶芸で難しいのは、毎回同じ形に成形することです。型があるわけではないので、手の感覚に頼るしかありません。型にはめたように同じ形の作品を作るということは、作り手として腕の良さを証明できるポイントでもあります。

陶芸作家は一点ものばかりを作るタイプと、同じものを何度も作るタイプに分かれますが、私のスタイルは後者です。京都の窯元での経験は、私の陶芸作家としてのキャリアにおいて、非常に重要な役割を果たしました。

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窯元では3年間修業を積み、その後独立しました。大阪府を拠点に「.Sue」というブランド名で自分の窯を持ち、近畿圏内のクラフトフェア・展示会を中心として活動しています。

 

 

「ちょうどよくてちょっと良い」それが.Sueのコンセプト

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私の器づくりにおけるコンセプト。それは「ちょうどよくてちょっと良い」です。例えば派手な色の器だと、人の目を引くかもしれませんが、長く使っていると、次第に飽きが生じます。だから私の作品は白や黒といったシンプルな色しか使いません。しいて言えば個性がないのが個性でしょうか。

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そしてなによりも使うことをメインにして器を作っています。器という用途を考えれば、料理を盛り付けたときに料理映えすることが大切ですし、棚に並べたときには、他の食器とのバランスを崩さずに、自然となじむことが重要。

そういった使いやすさを気に入ってもらったのか、私がイベントに出展すると、毎回のように来ていただけるお客様もいらっしゃいます。私の食器にもファンと呼べる方ができたと思うと、とても嬉しいです。

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新しい作品を作るときのアイデアについては、普段の生活からヒントを得ることが多いですね。なんでもない箱やペンケースのようなものでも、陶器で表現するならどうしようかと考えたり、スーパーの刺身パックを見て感じることでさえも、デザイン考案のひらめきにつながったりします。

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他にも海外の作品から得られるものは多いです。日本と海外では生活様式が違いますので、作られるものも異なります。例えば日本ではめし椀が一般的ですが、フランスではカフェオレボウルがよく作られています。そういった異文化の中から生まれた作品を、日本の生活様式に合うようにアレンジを加えることでも、新しい作品は生まれます。

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また、.Sueで使用する陶土は、岐阜県の五斗蒔土(ごとまきつち)という伝統ある土を使っています。主に美濃焼の一種である志野焼に使用される土で、結構癖があるのですが、その質感が私の作品にしっくりくるのです。ただ、土は志野焼と一緒ですが、作り方は伝統技法を真似するわけではなく、私なりの方法で作っています。

 

 

食卓を豊かにする食器をもっと多くの人に届けたい

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陶器には、食事をよりおいしく見せる効果があります。そして、人の手がかけられた食器を使うことで、食事自体も楽しくなります。そんな器を私はより多くの人に届けたいと思っています。

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そのためにも、工房の設備投資をして、今よりも生産効率をあげたい。まずは陶土を練るための土練機(どれんき)を購入したいと思います。そうすれば今よりも多くの器を生産することができて、その分多くの家庭の食卓を豊かなものにできますから。

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もう少し先の展望としては、「.Sue」というブランドを普及させるために、人を雇って事業として成り立たせたいです。ですが、ただ普及すればよいということではなく、どうしても譲れないものが一つあります。それは機械生産にはしたくないということ。

人の手がかけられて作られているからこそ、その器に魅力が生まれると思っています。だから、人を雇って生産量を増やしたとしても、絶対に”手作り”だけは守っていきたい。

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これからも陶芸一本でやっていく気持ちに変わりはありません。

それぞれの家庭の食器棚に入っても違和感なく受け入れてもらえるような素朴さと、軽くて使いやすく、洗いやすくしまいやすい「ちょうどよさ」と、お気に入りとしてずっと使っていける手作りの器がお手頃な値段で買える「ちょっと良い」感じを兼ね備えた食器を、これからも作り続けていきます。