[レポート]第1回 五城目町職人工房体験ツアーを開催しました!

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伝統サポーターズは「伝統産業の職人支援協定」を締結している秋田県五城目町と2016年6月12日、初の”五城目町職人工房体験ツアー”を開催しました。

伝統サポーターズでは、地方自治体や非営利組織などの団体と連携し、地場産業の職人・作り手や伝統的工芸の普及と発展に寄与する取り組みについて情報発信しています。そして、そうした活動を支援するサポーターを募集し、支援のお礼として”特典”を提供しています。

今回の”五城目町職人工房体験ツアー”は、五城目町の職人・作り手を応援するサポーターを対象に実施。FacebookやInstagram、Twitterなどのソーシャルメディアで呼び掛けを行い、新たにサポーター登録に応募した参加者も含めて「手しごと好き」「工芸好き」のファンが五城目町に集まりました。東京から来た参加者たち、秋田市内の高校生(母親がサポーターで、母親に代わって参加)、1か月半ほど前に大阪から五城目町に移住されたばかりの家族、五城目出身者など、生まれも育ちも年齢も職業も違うサポーターが、熱い一日をともに過ごしました。

工房体験ツアー先の職人・作り手は以下の方々。

1. 建具職人・小玉順一さん(小玉建具
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秋田県五城目町出身。1942年に創業した建具屋”小玉建具店”代表。父親から引き継ぎ、生涯建具一筋。気さくに相談できる温和な人柄、口癖は「基本が一番」。寸分のずれも出さない正確な仕事がモットー。

 

2. 家具職人・菅生雄之助さん(木工興真)
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秋田県五城目町出身。物心つく前からものづくりが大好きで、気付けば家具職人の道に。専門学校を出て家具屋「 木工興眞」に弟子入り。現在は、代表を継いで三代目として木工興眞にてフルオーダーメイドの家具製作を行っている。

 

3. 木工職人・佐藤友亮さん(佐藤木材容器)
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秋田県五城目町出身。佐藤木材容器の3代目。地元の五城目町で“木のものづくり”を通し、家庭の中に溶け込む日用使いの新しい商品開発を行っている。五城目ブランドが何世代も使われ、脈々と受け継がれる文化を目指す。

 

4. 陶芸作家・佐藤秀樹さん(三温窯)
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福島県会津本郷町の窯元で5年間の修行の後、秋田県五城目町に移住。植物の灰を原料とした釉薬を使い、日用雑器を中心とした陶器を制作。日々の暮らしの中で使われることによって、料理と器の両方が引き立て合う、味わいのある使い易い器作りを目指している。

 

プログラム

AM9:10 小玉建具訪問

AM10:10 朝市見学【市神祭】【朝市plus+】

AM11:10 木工興真訪問

PM12:10 昼食【朝市ふれいあい館で五城目名物「だまこ鍋」を味わう】

PM13:00 佐藤木材容器訪問

PM14:00 三温窯訪問

PM15:00 五城目町役場

ツアーの様子を写真で振り返ります。
まずは、小玉建具の小玉さんの工房に訪問しました。

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ずらりと並んだ建具を前に(写真左端)、木材の特徴や性質について解説してくれた小玉さん(写真右端)。同じ木材でも、用いる箇所や保存の仕方によって色彩に変化が出ることを教えてくれました。まさに、木は生き物。天然の木材を、特徴に合わせて商品にしていきます。

小玉さんは長年建具を製作していますが、最近では新しい製作にも挑戦されています。建具に用いる組子細工を取り入れた木製トロフィー(写真中央)などです。

機械類や道具についての質問も飛び交い、木材を製材する様々な種類のノコギリの刃についても解説してもらいました。また、木材を細かいパーツに分けて細工する”組子”の技術に、皆一様に関心を持ち、小玉さんの製作されたパーツを組み合わせ、組子細工に挑戦。糊などの接着材を用いず、ミリメートル単位で正確に作られたパーツを型にはめていきました。

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一通り、建具と組子について学んだ後、各テーブルに分かれて小玉さんが用意してくれた体験用「組子コースター」づくりへ。色分けされたパーツを選び、各自好きな模様を考えて、組子コースターを完成させました。

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続いて、500年以上続く伝統の朝市を見学。この日は通常の朝市だけではなく、「市神祭」も実施され、多くの人たちでにぎわっていました。

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皆さんの地元には、上棟式(写真左上)はありますか?
柱、梁、棟が建ち、屋根部分に棟木を上げる段階になると、建物の無事を願って餅を投げる祭祀のことです。朝市の広場でこの催しが行われ、大工さんが来場者に勢いよく餅を投げていました。ツアーに参加したサポーターも、餅をキャッチし、美味しそうに頬張っていました。

また、メイン通りに軒を並べる朝市の列には、五城目名物の地酒も振る舞われたり(写真左下)、秋田県内外で作られた漆器が売られたり(写真右下)、工芸品以外にも地元の農家が出店するなど町中が一体となって活気にあふれていました。酒樽を乗せた神輿も練り歩き(写真右上)、30度近くまで上がった気温の中、一足早い夏のお祭りを体験しました。

午前の部、最後の訪問先は木工興真の菅生さんの工房です。

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広い工房の中に案内されると、参加者一同初めて目にする道具の数々に目を奪われました。

大小様々な種類の鉋(かんな)。工房に保管されていた菅生さん製作の椅子は、背もたれ部分のデザインに美しいカーブが施されていました。「こんな風に斜めに木を削るのはどうすればいいのですか?」と参加者から質問が上がると、特殊な鉋(かんな)を用いて(写真上)、実演を披露してくれました。

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工房にある巨大なノコギリ(写真上)は、何十年も前の機械に用いられています。「この刃はどうなっていますか?」「ノコギリの刃はどうやって研ぐのですか?」との問いに、実際に刃の全貌を取り出して解説してくれました。

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長くて大きな刃を小玉さん(写真左端)が支えながら、「こうやって刃を研ぎます」と実演して見せる菅生さん。

職人さんが用いる道具自体が貴重です。長く使うために、職人さん自身がメンテナンスしています。昔は、道具を修理する専門の職人さんがいたそうですが、現在は道具専門の職人さんはいなくなってしまいました。五城目町だけの事情ではなく、全国的に見られる課題です。職人さんが使う道具を作り、保護し、修理する技術も、職人・作り手に求められます。

菅生さんにお世話になった後は、お待ちかねのランチタイム。先ほど朝市で訪れた朝市ふれいあい館に戻り、五城目名物「だまこ鍋」(写真下)を味わいました。

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潰したご飯を直径3センチメートルくらいに丸めた”だまこ”が入った鍋料理。地元の山菜が入り、お醤油などで味付けされた「だまこ鍋」はお腹に染み渡るように美味しく、参加者皆完食。だまこ鍋以外にも、五城目町で採れた食材を使い、漬物や煮物なども食卓に並び、”故郷”の味に舌鼓を打ちました。

胃袋が満たされ英気を養った後は、工房ツアー午後の部へ。佐藤木材容器の佐藤友亮さんの工房に移動しました。

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佐藤友亮さんは3代目。佐藤さんの作る食器は主に業務用として、秋田県内だけではなく、関東や関西など県外へも納品されています。最近製作した商品を見せてくれました。県内の飲食店に納品した”利き酒3種用のお盆”と”ぐいのみ”と”箸置き”です(写真上)。木目が鮮やかで、デザインも可愛らしく、参加者からは「我が家にも欲しい!」との声も上がりました。

新しいことに挑戦することが楽しいという佐藤さんは、「木工では珍しい体験を」と参加者に提案。秋田杉をバーナーで加熱し、木目を生かしたお盆の製作を体験させてくれました(写真下)。

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「試行錯誤を繰り返しながら、面白い作品を作りたい」と佐藤さん。月に100単位で受注を抱えながら、一人で製作されており、「悩みは手が足りないこと」と話します。

生産性を上げるために、最新の製材機械を導入しました。ドイツ製の機械は、パソコンにインストールしたアプリケーションを使って起動させます。

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牛の顔にデザインされた鍋敷きがどのように作られたのか、製作過程を解説してくれました(写真上)。設計書にそってプログラミングしていきます。製材する順序を細かく指定し、どの種類の刃をどの部分で用いるのかなどを詳細に作成するのです。

「複雑なデザインの商品を作る場合は、プログラミングに丸1日要することもあります。慣れるまで大変だけど、これを使いこなすことで、たった一人でも何とか切り盛りしていけます」と佐藤さんは話します。

若い職人ならではの発想と技術。効率的に生産力を上げるための機械活用は、今後若い世代の作り手の間で、どんどん広がっていくはずです。

工房ツアー開始から5時間。いよいよラストの三温窯へ。この日初となる陶芸工房の訪問です。

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初めに、粘土の作り方を解説してもらい、器づくりを実演した佐藤秀樹さん。あっという間に茶碗など3種類の容器を製作されました。

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土にも様々な種類があることを、説明。素焼きした状態(写真上の奥の3つの器)と完成後の状態(写真上の手前の3つの器)を並べて見せてくれました。

「窯から出すまでどんなものが仕上がるか分からないけれど、ある程度の土の性質で完成イメージはできます」と佐藤さん。元の土が、作り手によって自由自在に変ぼうしていく様が分かりました。

器や花瓶などの内側を形成していく過程では、土を削り取るために角材を用います。陶芸作家の佐藤さんもまた、製作で用いる道具自体を製作し、長年使用されています。

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工房の隣に併設する佐藤さん手づくりの登り窯を見学。内部へ続く入り口部分(写真左上)はこじんまりしているものの、中は細長く斜面にそってレンガが積まれていました。窯は3つの部屋に分かれていて、窯焚きの際は土の状態を見分けながら作品配置を考えます。春か秋、年に1〜2回、窯焚きをするそうです。

佐藤さんは30年ほど前に五城目町に移住し、修行先で使っていた登り窯を自らの手で再現しました。登り窯に一度火を入れると、3日間は寝ずに薪をくべて火の調節が必要になります。体力のいる作業なのです。

「1年に1度の作業ですし、失敗はできません」と佐藤さん。内部の温度は、窯の煙の吹き出し口に入れる、先の尖った置物の変形具合を確認するなど、目視と長年の感が頼りと言います。まさに”職人技”です。

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三温窯を後にし、五城目町の職人さんとの交流、工房ツアーは無事終了。

この日、ガイドを務めてくれたのは、秋田公立美術大学の渡邉幸穂さん(写真上)。五城目町に新しくオープンしたギャラリー『ものかたり』で働いていて、五城目町とは縁のある美大生。手づくり看板には、本日ツアーで巡った職人・作り手の似顔絵も。渡邉さん、ありがとうございました!

職人さんとは五城目町役場で解散し、東京など町外からの参加者をスタッフがJR秋田駅まで見送りました。
後日、参加者から寄せられた感想をいくつかご紹介します。


▼五城目町出身で町外から参加した女性サポーター

五城目にいる職人さんのことを知れたのでよかったです。子どもと五城目に帰る時は、是非職人さんたちの仕事を見学させたいです。次回も楽しみにしてます(*^_^*)

▼東京から参加した男性サポーター

初の秋田でした。伝統工房と町を盛り上げようという思いに触れることができて、楽しい時間を過ごすことができました。またよろしくお願いいたします。

▼東京から参加した女性サポーター

職人さんのお話をそれぞれの工房で聞かせてもらうことで、繊細な技や材料の性質や使い分け、道具の手入れや使い方、図面起こしや色々な加工技術、燃料の調達から作成までにかける様々な手間など、一つ一つの基本を極めた工程を踏んで、工夫を凝らして皆さんお一人でそれぞれ作品を創り上げているんだなーと、頭ではわかっていたようなことでも実際に見たり体験させていただいたりもして、その凄さを改めて実感できました。
職人さん同士の繋がりや、地域おこし協力隊、伝統サポーターズ、五城目町商工振興課の方など、皆さんが協力し合ってとてもいい関係で創り上げようとしているのも感じることが出来て、参加して良かったと思っています。ありがとうごさいました。
次回も、すでに新しい企画も幾つか思い浮かんでいるようだったので、今回とはまた違う雰囲気で楽しいツアーになるのではないかと思います。