建具職人としての基本を守り、技術を駆使した秋田杉の組子コースターにも挑戦

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小玉順一(こだま・じゅんいち)/建具職人

秋田県五城目町出身。1942年に創業した建具屋”小玉建具店”代表。父親から引き継ぎ、生涯建具一筋。気さくに相談できる温和な人柄、口癖は「基本が一番」。寸分のずれも出さない正確な仕事がモットー。


家業を継ぐのが当たり前の時代 棟梁に選ばれる建具屋に

私は五城目出身で、中学校、高校を卒業して、すぐに家業である建具屋を継ぎました。そのため、五城目の外に出たことがありません。

早くに父親を亡くしており、学生の間は父の仕事を母が継いで、その手伝いをしていました。

家業を継ぐ以外のことを考えたことはもちろんあります。三叉路が人生には必ずある。昔だから、長男は家の仕事をやらなければ駄目で、そういう風に育ってきました。若い頃、気持ちは常に揺れていたし、家業には必要のない試験を受けたこともあります。それはそれでもう昔の話ですね。

地域の建具を中心に手掛けてきました。今は工務店が中心ですが、昔であれば大工さんの棟梁が家を作るためのお財布を仕切っていました。結局のところ、損得うんぬん考えるのは施主から任された棟梁。当時の注文は量産もできなかったから、家1軒で昔は50〜60枚の注文がありました。

納品して問題があれば、狭い秋田ですからすぐに世間に伝わってしまう。だからこそ、棟梁は建具屋が作るものの材料の良さ、技術の良さは全て分かっていました。

 

建具に使う天然秋田杉の端材から工芸品作りに挑戦

仕事のときは、常に緊張の連続。この歳になっても、ずっとそう。むしろ、歳を重ねるごとに、仕事への緊張感が高まっているように感じます。

職人という商売は、お客様が生活の中で不自由にしていることをいかに解決するか、だと思っています。ご要望があれば、要望に応じて何でも作れるようにしています。

職人として一年中働いていたいです。そう考えているうちに、建具だけではなくて木工芸も手掛けるようになりました。時間も資材も有効利用しないといけません。建具で使った天然秋田杉の端材がもったいなくて、何が作れるか?と試行錯誤した末に組子コースターを作りました。

 

地域の伝統工芸を取り入れた学校建築を手掛ける

 

ある日、五城目第一中学校の建て替えで、地域の工芸である組子細工を扉に取り入れたいという要望をもらいました。大規模なプロジェクトでしたので、複数の職人が入って取り掛かりました。扉の組子細工デザインは、秋田公立美術大学の学生が起案。五十嵐教授が採用の判断を下す形で進めていきました。

粗組という大きな枠の中に、小さい部品を組み上げていく。建築の現場は職人たちの集まりなので、さまざまなこだわりが生まれます。

一つは色。杉の丸太の中心は赤く、周りは白い。川は桜、屋根は神代杉という風に、部分ごとに使う木も部位も変えて作りました。

もう一つは木材の選定。作品をガラスに入れて展示するので、ヒバのようにヤニがでる材料だと曇ってしまうので使えません。職人として譲れる部分と譲れない部分はありますよね。

 

昔の人の知恵や伝統を参考に、仕事は基本が大事

これまで手掛けたことのない仕事の前は、必ず自分の足で調査に回ります。

たとえば、蔵の戸の注文を受けたとき。伝統的な家屋が立ち並ぶ増田町や角館町を巡りました。蔵の戸に直接手を触れると、カビができて崩れてしまいます。外側に鞘をつけて、人の手が触れないように工夫しているのです。そういう昔の人の知恵や伝統を参考に、私なりに作り上げていくのです。

職人の仕事は基本が一番。基本がしっかりしていないと、最後に組むときに難儀するもの。通常なら、長さの違う部品を何種類も用意し、組み合わせてはめていきます。でも、私はどの部品を組み合わせてもはまるように作っています。厚さ一つとっても、多少でも違えば面と面が合いません。あくまで基本が大事です。

道具を使う手の位置を見れば、本当に仕事ができるかできないかは分かるものです。のこぎりを使うとき、柄を長く持っては正確に切れない。だから、正確に切るには柄を短く持つことになる。道具を持つ位置一つで、その人の技量はわかるもの。鉋(かんな)だって同じですね。

人のできない仕事をやって、技術を重ねていく。同じ工具を使えば同じものが仕上がるとは限りません。使えるでは足りない、使いこなしていかないと。

 

まだまだ勉強したい・・・という気持ちを持ち続けたい

これからも、一人一人のお客さんに気に入れられるように、コツコツと仕事をしていきたいです。

そして、地道に一所懸命に働いて、商域を広げていくのが目標です。長い職人生活で、これまで考えもしなかった注文を受けることもありました。今後も、遠方のお客様からの依頼や珍しい注文であっても、必要とされる方のために手を尽くていきたい思いは変わりません。

職人としてずっと憧れているのは「趣味で仕事をする」という生活。趣味は損得関係ではありません。
暮らしのことを考えず、仕事に没頭して最高のものづくりを出来たらいいなあという願望はあります。いつかそんな暮らしをしてみたい。50年やってきたけど、未だできないし、一向に実現できそうな気配もないけれど。

伝統だけではなく、現代の逸品も研究していかなければならないと思っています。

現代的な建築物を手掛けるハウスメーカーの建具も、必ず参考にするようにしています。テレビで建具について取り上げられていると、つい熱中して「もっと詳しく知りたい」と思うことがあります。「まだまだ勉強しなければ」という気概を、これからも持ち続けていきたいですね。

勉強を重ねながら、建具の技術を凝縮した秋田杉の組子コースターの開発にも取り組んでいきたいです。地元・秋田ならではの天然素材を詰め込んだ美しい組子コースターを作って、まずは地元の人たちに親しみを込めて使ってもらうのが夢。良いものを作り続けることで、必然的に地域外の人にも広がっていくはず。そう願って毎日毎日仕事に向き合っています。

 

《インタビューと文:五城目町地域おこし協力隊・柳澤龍》