“お茶と工芸品を楽しむ”文化を北海道に浸透させ、世界に広めたい

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白岩大佑(しらいわ・たいすけ)/急須職人

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北海道松前町出身。北海道教育大学函館校芸術文化課程美術コースで陶芸を学ぶ。その後、愛知県常滑市の無形文化財保持者、小西洋平先生に師事。年に一度常滑に出向き、小西先生の下で修業をしながら、北海道函館市に自身の工房である「鞍掛窯(くらかけがま)」を構える。

賞歴
・日本伝統工芸展入選(第58回)
・東日本伝統工芸展入選(第51、52回)
・日本煎茶工芸展入選(第25、26、27、28回)
・長三賞常滑陶芸展入選(第30回)
・小西洋平・白岩大佑 急須二人展(2012、2013、2014年)


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私の地元北海道では、お茶の「時間」を楽しみ、「味わう」文化が浸透しているとは言い難い現状があります。

日本列島で最北端に位置する北海道は、非常に雪も多く、寒い土地です。
そのため、温かいお茶は暖をとる一つの手段としての認識が強く、お茶そのものを楽しむという文化が本州に比べて薄く、その良さ・楽しさが広く知られていないように感じます。

そんな北海道の地に、お茶の楽しみ方や、工芸品の素晴らしさを広めていきたいと考え、私は急須を創り続けています。忙しい生活の中、ほんの少し手間をかけてお茶をいれて、特別な「時間」を味わってほしいと願っています。

 

 

日本最高峰の急須職人、小西先生との出会いが人生の分岐点

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私は絵を描くことや、ものづくりが好きだったこともあり、北海道教育大学函館校で陶芸コースを専攻していました。このとき、ろくろの練習として創り始めたのが急須でした。
それを見た小平先生(現・同大名誉教授)が私を自宅に招いてくださり、日本最高峰の急須職人・小西洋平先生の急須を見せてくれました。これが小西先生の急須との最初の“出会い”です。

そして大学三年生のとき、小平先生から「小西先生に一度会いに行ってみたら?」と、今思えば先生は冗談半分でおっしゃったのかもしれませんが、私はすっかり真に受けて、大学の休みを利用して、父親と二人で愛知県常滑市に向かったのです。単純ですよね(笑)。

小西先生の手がかりを探し、常滑の町を歩いていました。
そこで何気なく立ち寄った団子屋で、休憩しながらお店のご主人とお話をしていると、偶然にも小西先生がよく訪れるという「ある工房」について教えていただいたのです。その工房のご主人さんが小西先生とのお知り合いで、なんと小西先生に直接ご連絡していただけることになりました。

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しかし、このときは残念ながら電話で断られてしまいました。

意気消沈しましたが、このままでは帰れないと思い、せめて小西先生の作品だけでも見ようと、作品が展示されている場所へ向かっていました。すると、先ほど団子屋で聞いた「ある工房」のご主人さんが追いかけてきてくれて、小西先生の工房まで連れていってくれると言ってくださったのです。

なんでも、ご主人のもとに小西先生から改めて連絡があり、20ちょっとの大学生が、先生に会うために北海道からやって来たことを知り、取り計らってくださったそうです。
お団子屋のご主人の車に乗せてもらい、小西先生のもとへ向かった私は、ついに小西先生と対面することができたのです。そして、実際に先生の作品を見たときの衝撃は忘れることができません。

装飾が一切なく、美しい朱色と力強さと優しさを感じる造形、ふたもぴったりと収まる精巧な造り。
こんなにも素晴らしいものが人間に創れるのかと、とても驚きました。そして、このとき自分の進むべき道がはっきりと見えた私は、すぐに先生に弟子入りを懇願しましたが、断られてしまいました。

いきなりの申し出である上、先生は一切弟子をとらない方なので、当然のことかもしれません。
それでも私は先生との出会いに感謝をし、急須を1つ購入して北海道へ帰ることになりました。

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その後、北海道へ戻ってから、先生の急須をお手本にして急須を創り続け、練習に練習を重ねました。

毎年、自分の作った急須を持って先生の工房に押しかけること数年、ようやく小西先生に弟子入りすることが叶ったのです。

小西先生はもちろんのこと、協力してくださった方々や両親にも、感謝をしてもしきれません。

 

 

急須へのこだわりと、その思いを形にする自慢の鞍掛窯

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私は毎年常滑市へ行き、小西先生の下で勉強させていただいております。

まだまだ勉強中ではありますが、小西先生のお力添えもあり、北海道で展覧会に参加させていただけるようになりました。

そんな若輩者の私ですが、ここ北海道で急須職人をする上で、いくつかこだわりがあります。

一つは函館の土を使うこと。
わざわざ地元の土を使わなくても、造形がしやすい土を全国から取り寄せることは、比較的容易です。
しかし、私は函館の土にこだわりを持っています。私がここ函館で急須を創るにあたり、これだけは譲れないところでもありますが、まだ100%函館の土のみで完成するには至っていないのが現状です。

お茶碗やお皿などは仕上げられても、急須はまだ完成できていません。
とはいえ、可能な限り地元の土(土に限らず、わら、炭、薪、籾殻、砂、その他の素材も地元産)を使用したいという願い・目標を持っています。

現段階は「技術の上達」を目標にしているため、産地(常滑)から粘土を取り寄せ、そこにできる限り函館の土(素材)を混ぜて使用、制作しています。
しかし、技術がもっと向上したら、将来的にはすべて函館(や北海道)の土を用いて作ることが夢です。

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そして、もう一つは窯です。

現代では、電気窯やガス窯で焼かれることが多い陶磁器ですが、私は穴窯(薪で焼く窯)にこだわりを持っています。もちろん使用する薪も函館のもので、自分たちで遠くの山まで木を切りに行き、運び、薪割りをしています。穴窯で焼いた急須は、表情がとても豊かで、同じものは二度とできません。

火が入った場所、入らなかった場所で風合いも変わります。また薪から発生した灰が急須に付着し、溶けることで自然の釉薬(ゆうやく)となり、美しい艶も生み出します。これらは電気窯やガス窯では表現できない、自然の美しさなのです。

当然、機械で制御された窯と違い、焼き上げが難しくなります。
時には焼いたもの全てが台無しになってしまうことだってあります。失敗も多いですが、自分の想像を超える作品が誕生することもあるのです。この喜びも、機械では生み出せないものだと感じています。

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余談ですが、この窯を函館の地に造ることは、とても大変な作業でした。

常滑の窯を参考にして、家族や友人にも手伝ってもらい、耐火レンガを約2500個以上積みあげ、3ヶ月以上の時間を費やして、やっと造り上げることができました。

この窯の名前は「鞍掛窯(くらかけがま)」。

函館山の麓(ふもと)に築窯しました。
函館山は複数の小さな山々から成っており、その一つである鞍掛山から名前を取りました。

函館の夜景と朝日を見ることができる、私の自慢の窯場です。

 

 

北海道以外で急須を創りたいという気持ちは一切ない!

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冒頭でも述べたとおり、北海道はその土地柄故に、お茶の時間を楽しむという文化が希薄に感じられます。

その上、北海道は本州と比べると伝統工芸品の数も非常に少ないです。これだけ広大な大地があるのにも関わらず、経済産業大臣指定の伝統工芸品とされているものは、(2013年現在)アイヌ民族の工芸品が2つのみです。

このように職人の少ない土地だからこそ、工芸品を身近に感じている人は少ないのかもしれません。
実際私が工房で作業をしていると、工房の看板を見た人達に「急須なんて」とバカにされたり、笑われたりすることも、少なくありません。

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正直とても悔しいですし、悲しいと感じています。

しかし、北海道以外で急須を創りたいという気持ちは一切ありません。私がここで急須を創り続けることは、北海道にお茶文化を広める上でも、工芸品を身近に楽しんでもらう上でも、必要なことだと考えているためです。

私は2012年から毎年、小西先生と北海道で、作品の展覧会を開催しています。
そこでは急須創りを実演したり、来場者を煎茶でもてなしたり、さまざまなイベントを行っています。

こうした活動やイベントを通じて、お茶と工芸品を楽しむ文化を函館から北海道に、また海外にも広められたらと考えています。

 

 

作品としての急須、お茶を注ぐ所作の美しさが映える急須を

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今の時代、100円ショップへ行けば急須も器も売られています。

お茶も、すぐに飲むことができるペットボトルが主流であり、そもそも急須を知らないという若者も増えてきています。そんな忙しい現代社会だからこそ、特別な急須で一息ついてほしいと思うのです。

急須は、あくまでもお茶をいれるための「道具」です。
しかし、私は「道具」としてだけではなく「作品」としての急須も創っていきたいです。

急須は実際に使うものなので、実用性を考慮することは当然です。
注ぎ易く、急須の先から伝い漏れをしない、ふたがガタつかない、持ち手の角度など。
使い手のことを考え、実用的かつ機能的であるように、さまざまな点を考慮した上で、見た目にも気を配ります。

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その見た目とは、作品の独創性や面白さだけではなく、急須を注ぐ所作(しょさ)の見た目のことです。

急須は本来、両手で使用するものです。片手で持ち手を持ち、もう片方の手でふたを押さえ、お茶を注ぐ。

実際、日本人は相手を丁重におもてなしするとき、多くの場合両手を使います。
急須でお茶を注ぐときもまた同じ。そしてなにより、両手でお茶を注ぐ所作は、とても美しいと思います。
私の急須は、そうした所作が美しく映えるように、常に考えて創っているのです。

ぜひ、皆さんも家に急須があれば、お茶をいれてみてください。
きっと、心も体も安らぐことができると思います。