5,000の工程を経て作る甲冑!日本特有の職人技を多くの人に知ってほしい

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大越保広(おおこし・やすひろ)/甲冑職人

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昭和44年埼玉県越谷市生まれ。3代目大越忠保。株式会社忠保代表取締役。一般社団法人 日本人形協会指定 節句人形工芸士、埼玉県『越谷甲冑』 伝統工芸士、経済産業大臣指定 伝統工芸士などの資格を持つ。これまでに制作した鎧や兜で、内閣総理大臣賞、文部大臣賞などを受賞している。

▼公式サイト「甲冑の忠保」
http://tadayasu.co.jp/index.html


甲冑作りを始めたのは、1代目である祖母。昭和22年3月に工場を立ち上げ、忠保の甲冑作りが始まりました。

私は”おばあちゃん子”だったので、よくその作業を横で見ていましたね。実際に作業を手伝うことはありませんでしたが、幼いころから甲冑には親しんでいました。(ちなみに「甲冑」とひとくくりにお話しましたが、甲冑には「鎧」と「兜」の2つがあります。)

現在の作業場の職人は、15人のうち13人は女性。細かく、丁寧な気遣いにあふれる仕事が忠保の伝統です。

 

 

24歳で始めた甲冑職人の道、難しい専門用語を覚えるのにひと苦労

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私が職人になろうと思ったのは、24歳のころ。2代目の父が取り仕切る作業場に入って、修行を始めました。

私が幼いころから作業場にいるような大先輩の職人さんや私より少し早いタイミングで入った職人さんまで、あわせて15人くらい先輩の職人さんがいました。その人たちと一緒に実際に作業をしながら、仕事を覚えていきました。

作業場では難しい専門用語が飛び交うことも多いため、その言葉を覚えるのもひと苦労。1年かけて、やっとある程度自分で仕事ができるようになったと思います。

 

 

出来上がったものだけではなく、丹念な作業工程を見てほしい

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甲冑作りは、分業制です。鎧は約5,000もの工程を経て、やっと完成する。

たとえば、鎧の銅や兜の後ろを覆う小板である「小札(こざね)」、兜につける飾りの「立物(たてもの)」、金糸を用いて模様を描く織物の「金襴(きんらん)など、たくさんの部品があるのです。

ほとんどの日本人は、出来上がったものは見たことがあるのですが、どうやって作っているのか、は知らないはず。「甲冑職人をしている」というと、「どんなことをしているの?」と珍しがられることがほとんどですから。
工程の9割は手作業です。ひとつひとつ丹念に作られていることを、ぜひ、たくさんの人に知ってもらいたいと思っています。積極的に作業場の見学も受け入れています。

 

 

甲冑は伝統工芸の技の結集 日本特有の技術を守っていくために

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私は主に、集まってきた部品を最後に組み立てることを担当しています。

それぞれの工程に専門の熟練した職人がおり、納得のいくものを手作りで生み出している。部品のひとつひとつに思いがこもっているからこそ、最後の組み立てにも妥協は許されません。甲冑は「日本の伝統工芸の結集」とも言えます。金細工・木工品・京織物・組紐・皮革工芸など、ここまで日本特有の技術が集まったものは、ほかにはなかなかない。

甲冑がこれからも続いていくには、そうしたさまざまな伝統工芸も守っていかなければな りません。そのためにも、これからも甲冑作りを精魂込めて続けていかないと、という気持ちがあります。

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甲冑は“幸せ”を表すもの お客様の笑顔を思い浮かべて作る

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そもそも、端午の節句に飾られる甲冑は、お子さまの成長を喜ぶ、お祝いの場にあるもの。絶対的にハッピーなものです。

だから、ミスがあったり、故障があったりしてはいけません。細心の注意を払い、いかに気持ちを込めて作っていけるか、というのが職人の腕の見せ所です。

そうして作った甲冑を購入してくれたお客さんの声が、何よりも嬉しいです。

「とても素晴らしいものでした!」と感謝の言葉をいただくこともありますし、最近では、SNS上で、「お祝いなので飾ります」と写真がアップされているのを見る機会も増えました。

作った先に、お客さんの「笑顔」や「感動」があると思うと、もっともっとたくさんの人に届けたい!という気持ちで頑張れます。

 

 

新製品開発に着手で他分野との企画も 新しい発見と驚きの連続

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3代目を継いだころからは、新製品を中心になって考えるようになりました。

工程のひとつを担当するだけでは知らなかった甲冑の仕組みを知ったり、さまざまな分野の方たちと時間をかけて作っていく。

「こんなにたくさんの人がかかわって、こんなに時間がかかることなんだ!」と驚きもありましたし、そうやって出来上がっていく過程はとても楽しく、出来上がるものはより良くなっていきました。

 

 

大量生産の時代だからこそ、”一生にたったひとつの宝物”となる甲冑を

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2011年に起こった東日本大震災復興の意味を込めて製作を始めたのが「ボトルアーマー」。

一升瓶や四合瓶、ワインボトルに取り付ける甲冑型のボトルカバーです。国内外を問わず、もっと日本の伝統工芸である甲冑を身近に感じてほしいという思いも込めています。

今後は海外での流通も視野に入れています。「ボトルアーマー」だけでなく、さらに身近に親しんでもらえるような新しい商品も考えていきたいです。

世間では、大量生産ばかりが目に付くようになりましたが、こんな時代だからこそ、”一生にたったひとつの宝物”となる甲冑を、ひとつひとつ丁寧に作っていきたいです。