沖縄のわらべうたを沖縄竪琴で奏で、平和で美しい音楽を沖縄から世界へ広げる

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高良輝幸(たから・てるゆき)/沖縄竪琴

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昭和30年沖縄県那覇市生まれ。「沖縄竪琴」製作者。ギター作りや家具作りの仕事を経て、沖縄県うるま市に「てるる詩の木工房」を開く。沖縄の木を用いて竪琴やその他の弦楽器を製作するほか、首里城の調度品の復元や琉球漆器のレプリカ作りなどに携わる。厚生労働省認定家具製作一級技能士、沖縄県認定工芸士(小木工)、公益財団法人国土緑化推進機構認定「森の名手・名人」(木工職人)の資格も持つ。

▼てるる詩の木工房
http://www.tategoto.okinawa/


ギターを弾くのが好きだったので、岐阜県の株式会社ヤイリギターに就職して4年間工房で働きました。家具メーカーに転職したのち、ふるさとの沖縄に戻って2002年に家具職人として独立しました。

しかし、工房を作ったものの、なかなか家具が売れず「かさじぞう」のような年の暮……。そんなときに妻が偶然新聞記事で見つけたコンサートに誘ってくれたんです。

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そこでドイツ製竪琴の美しい音色を聴いて、子どもの頃「竪琴を作ってみたい」と思っていたことを強烈に思い出しました。演奏が終わった後、奏者の方に思わず「私が竪琴を作ったら弾いてくれませんか」と声をかけました。

試作品を作って奏者の方に見てもらったところ、幸運にも使っていただけることになりました。それ以来、家具製作の合間をぬっては夢中になって試行錯誤を繰り返し、今は竪琴をメインに製作しています。

 

 

竪琴工房は全国でも希少、南の土地だからこその利点

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竪琴を専門に作る工房は全国で3カ所くらいしかないようです。

私は沖縄の木で作っているので、「沖縄竪琴」と銘打って製作・販売しています。
「沖縄の木で楽器が作れるんですか?」
ほとんどの方がまずそう口にされます。

高温多湿な気候なので木がやわらかかったり、木が割れたりするようなマイナスイメージをお持ちなのかもしれません。 けれども楽器には意外なほど南方系の木が使用されています。三線の棹には黒檀、ピアノの鍵盤にはブラックエボニー、オーボエやクラリネットにはグラナディラ、 ギターにはハカランダやローズウッド、マリンバにはパリサンドロ……。

実は、木は南に行くほど堅く、密度が濃くなるのです。たとえば同じスギでも秋田のものはやわらかく、九州のものは堅い。本州に住むギター職人の先輩に沖縄のクワを送ってあげると「堅いねえ」と驚きます。

 

音に狂いが出ないよう、8年以上寝かせた木を使う

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古代の人が弓に張った弦を鳴らしたことから弦楽器が生まれたことを考えると、堅いだけでなく弾力があり音の振動を伝えることのできる木が楽器作りに適した木と言えると思います。そうしたことをふまえて、私はクワやシイノキ、イスノキ、ヒメツバキなどを使っています。

木は丸太で購入して、製材所で使いやすい大きさに切ってもらうのですが、横で見ながらどの部分を切るか指示をします。製材された木はじっくりと8年以上乾燥させます。楽器になったときの割れや狂いを極力減らすためです。

 

音へのこだわりを追求、半年かけてアーチトップ製作

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私の竪琴のいちばんの特徴は、共鳴板を「アーチトップ」にしていることだと思います。竪琴を作るメーカーは世界に200社くらいあるようですが、アーチトップを採用しているのはウチだけではないでしょうか。

アーチトップとは、弦を張っている竪琴のおもて面が丸みを帯びていること。平らになっているものをフラットトップと言います。アーチトップはフラットトップに比べて張力のバランスをとりやすく、丸いやわらかな音がします。

アーチトップにするには板を根気よく豆カンナで削っていきます。弦を固定するブリッジも丸みをもたせなければいけないので、難易度が高く、手間も時間もかかります。1台作るのに約半年を費やします。

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アーチトップの竪琴は45~85万円くらいで販売しています。一方、「普及版」として少し丸みのついたセミアーチトップの竪琴は25~35万円、子ども用竪琴は7万5,000円~10万円くらいで販売しています。

 

漆は20回塗り重ね、試行錯誤をしながら弦作りも

アーチトップの竪琴には漆を塗ります。漆は木をもっとも美しくする塗装だと思います。

普及版のほうはニスを塗ります。ニスは3回塗ればいいので1日の作業で済みます。一方、漆は20回くらい塗らなければいけないので、乾かすのも含めてひと月くらいかかります。漆は木地の仕上げをしっかりやらないと黒い筋が浮いてくる。手を抜いているとわかってしまうのが漆の怖さです。

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弦も自分で作っています。

0.25mmから0.5mmの銅線を使います。細い弦はナイロンに銅線を巻きつけて作ります。隙間ができるといい音が出ないので、丁寧に巻いていきます。太い弦は細い弦を複数本巻いて太くします。太い銅線1本を使うよりもいい音が出ます。太い弦にするとき、0.25に0.3を巻くとなぜかうまく巻けないのに、0.3に0.3を巻くとうまくいく……ということはやっているうちにわかってきました。
自分で作るからこそいろいろな発見があり、技術も磨かれていくのだと思います。

 

 

古くからある竪琴、繊細な音色で“しあわせ”を感じて

私が工房を構えるうるま市は、沖縄県中部の町です。
世界遺産の勝連城跡があることで有名で、海中道路を経由して平安座島や宮城島、浜比嘉島などの離島に行くこともできます。

那覇市出身の私がうるま市を選んだのは、広い敷地が必要だったのと、北部の山地「やんばる」に比較的近くて木材の買いつけがしやすいという理由からです。ときどき母の故郷である浜比嘉島の自然のままの浜で何もせずに波の音を聴いているのがいちばんの贅沢です。

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弾いていただく方、またその演奏を聴いていただく方と深い喜びを共有できること。それが何よりの喜びです。

竪琴は古くからありますが、ドイツにおいて障がい児教育で用いられたことが現代に復活したきっかけといわれています。こころの繊細な子どもにとってはピアノの音では強すぎる、竪琴の音がちょうどいいのだそうです。

私の作った竪琴も、障がいのあるお子さんが弾いてくださっています。「大切にゆっくりとケースを開けて、しあわせそうに弾いていますよ」というご家族の話を聞くと、うれしいと同時に、大事に弾いてくださってほんとうにありがたい気持ちでいっぱいです。