沖縄の代名詞シーサー“村落獅子”に魅せられて 歴史・文化の研究活動も続けたい

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若山大地(わかやま・だいち)/琉球石灰岩の石彫作家

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昭和51年沖縄県名護市生まれ。琉球石灰岩の石彫作家。2011年、沖縄県那覇市で「スタジオde-jin(でーじん)」を立ち上げる。琉球石灰岩のシーサーの制作および販売をするほか、沖縄中の村落獅子の調査および研究も行なっている。

▼スタジオde-jin
http://www.de-jin.com/


大好きな沖縄に移住 「沖縄」テーマにずっと石を彫っていた

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私は愛知県出身ですが、母の郷里と祖父母を始め、多くの親類が沖縄に住んでいました。子どものころは、お盆になるとほぼ毎年、沖縄に来ていました。沖縄が好きで、ずっと「沖縄に住みたい」という思いがありました。

高校卒業時の進路に悩んだ際、絵に興味があったことと、沖縄に芸術大学があることを知ったことがきっかけで、沖縄県立芸術大学に進むことを決めました。

大学では彫刻専攻で石彫(せきちょう)を学び、大学院へも進みました。その後も彫刻を続けたかったので、叔父の建設会社や石の史跡修復の仕事をしながら、大学の助手や非常勤講師の仕事をして、ずっと石を彫り、作品作りをしていました。

その頃の彫刻のテーマは、大好きな「沖縄」。でも、彫刻家としてこの地で生計を立てていく道筋を見つけられず、だんだん不安になっていました。

 

 

魔除けとして知られるシーサー“村落獅子” 素朴な表情が特長

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そんなとき、友人から「村落獅子って知ってる?」と聞かれました。今から約6年前のことです。

沖縄の家の屋根などに置かれたり、沖縄のお土産として売られているシーサーは陶器や漆喰で作られているものがほとんどです。「阿吽(あうん)」を表現した雄雌の一対で置かれることが多く、最近ではコミカルな表情をしているものもあります。

一方、村落獅子は琉球石灰岩を手彫りしたシーサーで、主に魔除けとして集落の入り口などに置かれています。村落獅子は一般的にイメージされるシーサーとは異なり、かろうじて目と鼻と口が分かるような素朴な表情をしている物も多く、対のものはありません。
今となっては目立たないところに置いてあることが多く、沖縄で生まれ育った人にすらあまり知られていません。

 

 

災いがピタリと止んだ!「富盛の大獅子」の言い伝えが起源

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そもそもシーサーはシルクロードを渡って、中国から沖縄に伝わったとされています。

1689年に沖縄県八重瀬町東風平町で作られた「富盛(ともり)の大獅子」が、沖縄初のシーサーの起源とされています。琉球石灰岩で作られたこのシーサーは、災いに苦しめられていた富盛の集落が王府の命を受けて制作し、安置以降それまで続いた災いがピタリと止み、それを受けて周囲の村落でも琉球石灰岩を手彫した獅子が安置されるようになっていきました。そのようなことから、今のシーサーのルーツは村落獅子なのだといわれるようになっています。

村落獅子に使われている琉球石灰岩はサンゴ礁の働きで形成された石で、琉球列島の島々で多くみられる岩石です。更新世(約258万年前から1万1700年前までの期間)に形成され、中からサンゴの欠片や貝の化石が出てくることもあります。沖縄県では古くから建築材料として石畳や石垣などに使用されています。

それまで約10年もの間、ずっと石に携わってきていた私は、こんなにも多く琉球石灰岩で作られたシーサーがあることを知らず、衝撃を受けました。それと同時に、素朴ながら強い存在感を放つ、この村落獅子を見て、「これだったらやっていける」と確信し、琉球石灰岩のシーサーを作ることを決め、2011年に「スタジオde-jin(でーじん)」を立ち上げました。

 

 

琉球石灰岩で作るシーサー 扱いが難しいからこそ表情に富む作品に

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琉球石灰岩製の村落獅子が作られたのは、主に明治期以前の時代です。そのため制作方法は独学です。当時の集落に置くような大きなサイズでなく、主に部屋にも飾れる位の大きさのものや玄関の門柱などに設置できるサイズのシーサーを、機械は使わず、手彫りしています。昔は、シーサーは村で所有するものでしたが、現在は個人で所有できるため、このような幅広いサイズを展開しています。

まず、石屋さんでカットしてもらった琉球石灰岩を、大きな石頭(せっとう、ハンマーの石道具名)とノミで荒彫りし、ビシャンという工具で形をきれいに整えます。

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その後、小さな石頭と細かいノミで削りながら目と鼻と口を作ります。

琉球石灰岩は石としては柔らかい部類になりますが、気孔を多く含み、若く不均一な為、彫っていると予期しない場所に孔があったり、層の分かれ目があったりと,彫れば彫るほど扱いが難しいと感じていますが、そうした毎度違う癖を持った石の違いが、作品のバリエーションを増やしてくれています。

削る際に手彫りでも粉塵がたくさん出るので、くしゃみが出たり、鼻がムズムズしたりするのが、ちょっと大変ですね。

完成したシーサーはどれも表情が異なります。手彫りであることと、使う石によって表情が大きく左右されることも魅力だと思います。ぜひ手に取っていただき、ひとつひとつ表情の違いも楽しんでほしいと思います。

 

仕事を通しての貴重な出会い 沖縄の歴史を学ぶ機会にも

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2014年秋、沖縄県那覇市にある野外喫茶店ひばり屋さんの庭で、初めてシーサーをメインにした個展を開きました。県外からもたくさんのお客様が来てくれました。

こういったイベントでは、さまざまな人に出会えます。

以前、琉球石灰岩のシーサーを購入してくださったお客様に、「置いたおかげでいいことが起きた!」とおっしゃっていただいたことがあり、予期していたことではなかったのですが、とてもうれしかったです。

また、沖縄の歴史や村落獅子に詳しい人々との出会いでは、学べることもあります。

外に置くシーサーは魔除けのためなので、シーサーに塩と新酒をふりかけ、清潔にした口で息を吹きかけて魂を注入するという独特のお清め作法があると教えてもらったことがありました。それからは私もその儀式をお客様に伝えるようにしています。

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作品としての彫刻だけを作っていたころより、琉球石灰岩のシーサーを通じて、それまで出会えなかったような人々に出会えるようになったことがとてもうれしいです。それは、シーサーが昔から人々に親しまれていたことが大きな理由かなと思います。

沖縄の人は昔から石に神秘を感じており、シーサーは沖縄の代名詞です。

そして私は単純に、この素朴な表情のシーサーが好きなんです。

これからも琉球石灰岩のシーサーを通じて、「こういうシーサーがあってもいいんじゃない」ということを伝えていきたいです。