かやぶき屋根と火のある暮らし つなぎたい、“縄文”の思いをエコな未来へ!

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渡辺 拓也 (わたなべ・たくや)/かやぶき職人

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2009年よりかやぶき建築に従事。2014年に独立して「縄文屋根」を設立。縄文時代から続くかやぶき建築を通して、日本の暮らしを取り戻すことを目標に、現代にも使えるかやぶきを提案している。


はじめに。まずはかやぶき屋根についてのご説明

かやぶき屋根と聞いて、どんな屋根が想像つくでしょうか?
また、なんの素材で、どんな風に屋根をふいていくかイメージできるでしょうか?

今では見たこともない人の方が多いのではないかと思うほど、数少なくなったかやぶき屋根。素材は、カヤと呼ばれるススキやアシなど、山や水場に自生するイネ科の植物を刈り取り、積み重ねてふく、日本昔ばなしや時代劇によく出てくる、いわゆる草屋根。

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僕は、その数少なくなったかやぶき屋根のふき替えや修理の仕事をしているのですが、この失われつつある伝統技術には、ものすごい知恵や技、そして日本人の魂が詰まっているんです。

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道具は手作り。縛って、踏んで、叩いて、刈り込んで…きれいな曲線的な屋根の形を造る。
建築なのに、長さを正確に測ることはほとんどない、受け継がれた経験と感覚の世界。
技術的に難しいことって、それほどないんだけど、ひとつひとつ屋根の形も、使う材料も毎回違ってくるし、地域や職人さんによっても、やり方は違ってくる。

どうやったらカッコよくて、長持ちする良い屋根がふけるか、40〜50年前にどこかの職人さんのふいた屋根から学ぶことも…。
日々研究、一生修業です。

 

 

縄文時代から脈々と続くかやぶき建築の面白さ

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かやぶきの原型は、日本史で登場する縄文時代の竪穴式住居。
縄文遺跡が出る地域には、竪穴式住居がよく見られますが、そういった復元もかやぶき職人の仕事のひとつで、骨組みには、もちろん角材など一切使わず、皮付きの原木を植物のツルや木の皮などで縛り、地面からカヤをふいていきます。

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100人以上入れそうな大きな住居もあったり、土屋根や笹(ささ)ぶきなど、沖縄から北海道まで、地域によって異なるさまざまなふき方には驚かされることばかり。

貨幣社会ではなく、物々交換の時代といわれる縄文時代。今と比べると不便も多く、貧しいイメージもあるけど、実はものすごく豊かな時代だったようです。そんな縄文時代を感じることもできるのが、かやぶきの面白さ。

 

 

無駄のないかやぶきは自然と共に暮らす未来型住居!?

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清潔さと快適さを追求した現代建築ですが、40〜50年もすると、ほとんどが再利用できないゴミになるのが現状。

かやぶきの家のすごいのは、ゴミが一切出ないという点。それどころか、古くなった屋根は畑の良質な肥料になる。
おじいさん職人が40〜50年前にふいた屋根の古カヤが、半世紀の時間を経て土に返され、美味しい野菜になって食卓に並ぶなんていう、壮大な循環型の暮らしが、かやぶきにはあります。

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また、カヤは優れたエコロジーな自然素材で、夏の室内の涼しさは格別。
家自体が大きいため、冬は寒いですが、いろりで火をたいて暖まり、屋根もその煙でいぶされ長持ちするという、無駄のない暮らしの形。
1万年もかけて、日本の風土に合わせて築き上げられてきた、芸術とさえ言えるのではないでしょうか。

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50年もすれば家の寿命がきて、解体費がまた加算するようなマイホームを、ローンを組んで建てる人も多いですが、かやぶきの家は、100年も200年も先祖代々受け継いでいけるもの。維持費はかかるとはいえ、省エネやエコな家造りが注目されてきた時代で、それ以上の価値のあるかやぶきの家が、また見直されていくといいです。

 

 

取り戻したい『結い』 かつては日本にあったお互い様文化

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かやぶき屋根といえば、世界遺産にも登録されている岐阜県の白川郷。合掌造りの、あの両手を合わせたような急勾配の独特な形はとても印象的で有名です。ですが、地域の人が100〜300人も集まって、1〜3日ほどで屋根をふき替えてしまうという、驚異的な工法も含めて世界遺産だということは、それほど知られていないかもしれません。

ふき替え作業だけでなく、カヤを集めてきたり、田植え、稲刈り、屋根雪下ろしなど、さまざまな場面で近所の人が労働力交換をすることで成り立っていた『結い』。かつては、日本中で当たり前のように行われていた、お互い様文化。

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その結いが失われ、ふき替え費用は高額になるため、今では現存のかやぶきの多くは、文化財として補助金を頼りに守っていっています。
一方で、文化財に登録していないけど、実際に人が住んでいるかやぶきは、どうしても維持が難しく、まだまだトタン屋根にふき替えられたり、解体されたりして減っているのも現状。

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今では1000万円を越えるカヤのふき替えを、昔はすべて人力で、お金を介さずやっていたという話を知り、ふと、物にあふれるこの現代社会と比べたときに、今と昔とどちらが豊かなんだろうかという思いも生まれます。
かやぶきをやっていく中で、昔の暮らしに戻るのではなく、今の時代にあった現代版の『結い』のスタイルを考えていくことが、少しでも多く現存のかやぶきを守っていけることにつながっていくのではないか?! といろいろ模索もしているところです。

 

 

「働く」ということの基本を教えてくれるカヤ刈りの魅力

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かやぶき屋根の減少とともに、少なくなっているカヤ場と刈り手。
材料集めのカヤ刈りも僕たちの仕事のひとつ。
雪の降る地域では11月〜雪が降るまで。
雪の降らない地域では12〜3月が、カヤ刈りシーズン。
ススキを刈って束ねて運ぶのですが、車も入れないような山の斜面が多いので、やっぱり人力。

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これは、屋根に登ってるよりも、実はハードですが、鎌を片手に1日草原を歩き回るのは、なかなか気持ちのいいもの。手作業というのが、またいいんです。

機械化できないかと考える人も、もちろんいるわけですが、カヤといってもいろんな太さや長さがあったり、カヤ場に生えているさまざまな植物や生き物に出会う中で、いろいろな発見があるのが楽しいところで…。
手作業の楽しさや、体を動かして働く気持ち良さを大切にした仕事をしていくこと。そんな働くことの基本を教えてくれるカヤ刈りには、ぜひたくさんの人に経験してほしいです。

 

可能性は無限大 縄文屋根チームの目指すところ

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今、僕の周りのかやぶき職人は、仲間の一人親方の職人を呼びあったりして、2〜8人ほどの少人数で仕事をします。
家から通えない距離の現場も多く、県外への泊まり込みも頻繁。大変な面もありますが、仲間の職人で共同生活しながらというのも、面白いところです。

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一年ほど前に独立して、縄文屋根という若手のチームで動いているのですが、さまざまなつながりがある仲間で、かやぶき屋根の仕事以外にも、大工仕事や特殊伐採など、仕事の範囲は多岐にわたります。
かやぶきは建築のようで、実は農業的な要素が強く、自分たちの食べ物は自給していきたいという思いも生まれ、みんなでお米作りにも取り組んだり、屋根の解体で出た古カヤを畑にまいたり…。

いずれは、パーマカルチャーのような暮らしをしようと、日々模索中。かやぶきがあった時代の人は、なんでも自分たちでやっていたように、みんなで百のなりわいを持つ『百姓』を目指しています。

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かやぶきをはじめ、職人の世界というと男だけの現場が多いですが、縄文屋根チームには女の子も混じって仕事をしています。良い屋根を造るのに一番大事なのは、実はチームワーク。男だけで仕事をしているより、女性がいることでチームのバランスがよくなり、現場の雰囲気もすごくよくなります!

これからは女性の時代!? という話も、最近よく耳にしますが、かやぶきに興味があったり、やってみたいという女の子が意外と多いんです!
草という柔らかい素材、針と縄で屋根を造っていくのは、まるで大きな縫い物。
どうしても力が必要な場面は男がサポートしながら、かやぶきをやりたい女の子チーム『image12茅(かや)ガール』の育成にも力を入れていこうかというところです。

 

また、現存のかやぶきを守るだけでなく、増やしていくことも考えていかなくてはと思い、かやぶきのバーカウンターやショーケースなど、新しいスタイルのかやぶきを提案するなど…。

縄文屋根は、先代の知恵から学びながらも、やりたいことや良いと思うことは、どんどん取り入れ挑戦していくチームです。

 

 

人間のルーツ 火のある暮らし、祭りのある暮らしを!

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かやぶきって、実はもう屋根だけの話じゃないんですね。かやぶき屋根の形だけ守っていっても意味がない。
かやぶきの家のある暮らしには、現代失われつつある、日本人、いや人間のルーツみたいなものが、山ほど詰まってるんです。
その約1万年前の縄文時代から受け継がれ、日本で最も古い伝統的で原始的な家造りと暮らしの知恵と技と魂が、今、消えつつある。
これを途切れさせるのは、もったいないどころの話ではない。

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中でも、火をたくこと。
やっぱり人は火をたくことをしなくなるとダメな気がするんです。
火を見ると人は落ち着く。いろりで火を囲んでいると、何も話さなくても場が持つような安心感がただよいます。
煙でいぶすことで、屋根を長持ちさせられる理由も含めて、たき火をしたことがない大人や子供が増えている現代に、かやぶきと火のある暮らしはセットで受け継いでいきたいこと。

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それから、昔の家造りは、祭りと共にあったようで、柱を建ててはお祝いし、屋根がふきあがってはお祝いし、また家が完成してはお祝いする。やはり神様という存在が、もっと暮らしの中に大きくあったのです。

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かやぶきをやっていると、神社やお寺建築に関わることも多く、自然と神様の存在を意識するようになります。
最近では、山梨県にある不二阿祖山太神宮という神社の鳥居を、カヤで造らせていただくという有り難いご縁も!?

白装束になって仕事をすると、身も心も引き締まり、日本人がずっと大事にしてきた心を実感します。
自然に学び、御先祖様に感謝し、神様をお祭りすること。そして、すべてのご縁を大切に仕事をしていきたいです。

 

 

皆さまと一緒になりながら、かやぶき文化を広めたい!

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かやぶきの素晴らしいところは、誰でも簡単に手に入れることのできる材料と道具で、形にこだわらなければ、誰でも簡単に屋根をふくことができること。

僕たちがやっているカヤ刈りワークショップ体験では、鎌の研ぎ方からカヤの刈り方を職人直伝で体験していただき、かやぶきワークショップ体験では、カヤのふき方を実際に屋根に登って体験していただきたいと考えています。

是非とも実際にカヤに触れていただいて、自然の魅力やかやぶきのある暮らしのにおいを感じてほしいと思います。

少しでもかやぶきに関心のある人や経験者が増え、縄文時代から続くかやぶき文化を途切れさすことなく受け継ぎ、新しいかやぶきのある暮らしのスタイルを、みなさまと一緒になって築いていければ幸いです。