沖縄伝統の織物「芭蕉布」 産地の特性生かした優れた工芸を次世代に残したい

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鈴木隆太(すずき・りゅうた)/芭蕉布作家

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1974年那覇生まれ。沖縄県立芸術大学工芸学部織コース卒業、大宜味村喜如嘉、平良敏子先生の下で芭蕉布を勉強。沖縄県伝統工芸検査員(芭蕉布)を経験。2004年8月宜野座村にて「鈴木芭蕉布工房」を開業。2015年 沖展準会員。

ホームページ
http://suzuki8402.ti-da.net/


伝統工芸の盛んな沖縄の伝統織物「芭蕉布」

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沖縄には紅型(びんがた)や琉球ガラス、首里織をはじめとした、伝統工芸が数多く存在しています。かつての琉球王国から受け継がれてきた文化や伝統が色濃く残る沖縄ではありますが、その伝統も現在では存亡が危ぶまれているものも少なくありません。

そして、私が作る「芭蕉布(ばしょうふ)」も、その一つです。芭蕉布とは、沖縄の大宜味村喜如嘉(おおぎみそんきじょか)を中心に生産される伝統織物で、糸芭蕉という植物の繊維を利用し、すべて職人による手作業で生産されています。

しかしながら、沖縄の人でさえ芭蕉布という存在は「名前は知っている」「聞いたことはある」といった程度で、特に若い人はその存在すら知らない人も多い。県外になれば、なおさらでしょう。

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着物文化が希薄になってしまった現代において、織物の需要が減っていくのは仕方がないことかもしれませんが、だからと言って、こんなに素晴らしいものを若い人たちが知る機会もなく、知らぬ間に無くなってしまうのは、とても悲しいことだと思います。

伝統サポーターズを通して「そんなものが沖縄にあったのか」と知っていただくきっかけとなれば、幸いです。

 

 

芭蕉布、学友、先生、いくつもの出会いで開かれる職人の道

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私は沖縄に生まれ育ち、何か面白いことをやりたくて入った芸術大学で、偶然にも出会ったのが芭蕉布という工芸。糸を績んで(うんで)、ひとつの形にしていくことの面白さや奥深さを知り、織りの世界へ飛び込みました。
※績む(うむ)とは、比較的長い繊維をより合わせてつなぎ、長い糸を作っていくこと。

幼いころからものづくりが大好きで、プラモデルや工作は得意でした。芸術大学では、何をするか特に決めていたわけではありませんでしたが、なかでも一本の糸から形を成していくプロセスが面白そうだと感じ、織りを専攻して勉強していきました。

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もちろん機織りなんてしたこともなかったですから、失敗を繰り返しながらも、同級生たちと支え合い、織りの技術を習得していきました。
技術以外でも、普段の生活では気が付くことのなかった糸の大切さや、糸が持つ役割などをあらためて知り、一本一本の糸が幾重にも折り重なって一つの作品となることを理解することで、ものづくりの精神を心得ていったように思います。

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そしてあるとき、芭蕉布の作り手でもあり、人間国宝でもある、平良敏子先生が非常勤講師として大学に招かれ、芭蕉布作りを体験させていただいたことがあったのです。沖縄の植物から生み出される独特な風合いは、当時とても印象的でした。

それから大学卒業を間近に控えたころ、絹や木綿とは違った、沖縄独特の織りをやりたいと思うようになり、芭蕉布づくりの名人、平良先生のところへ相談しに行ったのです。すると「手間ばかりかかって大変だけど、やってみるかい?」と言ってくださり、大学卒業後は平良先生の下へ弟子入りすることになりました。

 

 

完成まで全てが手作業 それはまさかの糸芭蕉の栽培から

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平良先生の下では、約8年にわたって勉強をさせていただきましたが、いざ現場に出てみると、大学での経験はほとんど通用しないことを痛感させられました。

芭蕉布の糸は、絹や木綿ではなく、糸芭蕉という植物の繊維から作られることが特徴の一つですが、この糸は非常に乾燥に弱いのです。そのまま織っていくと、すぐに糸が切れてしまうので、学校で習った通りに作業していたようでは、まったくうまくいかない。適度な水分を与えてあげつつ、力加減を調整して、慎重に織っていく必要があります。これには大変苦労しました。

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また芭蕉布に必須となる、糸芭蕉の栽培。こんなことも学校では習いませんから、苦労しましたね。糸芭蕉は植えてから約3年経過したものが繊維の具合もよく、刈り取りの目安なのですが、この目利きも非常に難しい。言葉で説明することはできません。何度も見て触ることで、経験と感覚を身につけるまでが大変なのです。

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このように芭蕉布は栽培から織りまで、すべてが人間の手作業で行われています。自動の機械は一切ありません。そのため、帯を一つ作るだけでも、繊維の準備を含めると3か月以上はかかります。沖縄の太陽の恵みを受け、大人の身の丈以上にたくましく育った糸芭蕉の繊維を、手作業で丁寧に糸を績み(うみ)、織っていく。

こうして作られた芭蕉布は、肌触りもサラッとしていて、肌にくっつくこともない。加えて通気性もあるため、高温多湿なこの国の環境に適した、優れた伝統工芸となるのです。

 

 

失われてゆく伝統工芸 次の世代へ引き継ぐためにできること

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芭蕉布の全盛期は私の父、母の世代だといわれています。私の師匠である平良先生は95歳を超えるご高齢ですが、父、母の世代ごろからは、芭蕉布の需要は下り坂。あわせて作り手である職人も減り続けており、私のような40代の者が若手と言われるような状況です。

だからと言って、やりたくない人に跡を継いでくれとか、無理にやってくれ、と言うつもりはありません。時代の流れの中で、淘汰(とうた)されるものもあれば、繁栄するものもある、これはある程度仕方のないことだと考えています。

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しかし、消滅することだけは避けなくてはなりません。そのためには、まず知っていただくこと。「日本にはこんな工芸があるんだ」と知っていただいた方の中から「やってみたい」と考えてくれる方が一人でも現れてくれたら本望です。

微力ではありますが、ブログやフェイスブックを通じてのPR活動も始めました。職人の中では若い部類に入る私が、どうにか次の世代へつなぐ道を作ること。これが私に課せられた使命だと思っています。