金具の造形美、シンプルで力強い“越前箪笥”を伝え広めたい

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山口 祐弘(やまぐち・ゆうこう)/越前箪笥職人

profile

1975年、福井県越前市生まれ。近畿大学生物理工学部機械制御工学科を卒業後、香川県高松市の建設機械メーカー(株)タダノに入社。設計開発を担当。2005年、長野県立上松技術専門校に入学して木工を学んだ後、香川県高松市の特注家具メーカー(有)シティングに入社。10年、故郷の越前市に戻り、越前指物工芸で修行し伝統技法を習得。12年、Furnitureholic(ファニチャーホリック)設立。

▼Furnitureholic(ファニチャーホリック)公式サイト
http://kaguchuudoku.com/index.html


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伝統工芸の盛んな越前市で生まれ、小さい頃からものづくりが大好きでした。サラリーマン生活を経て修行を積み、家具職人になった山口さん。2013年に国の伝統的工芸品に指定されたばかりの地元の越前箪笥に魅せられ、担い手のいない現状を克服すべく後継者に名乗りを上げました。現存する越前箪笥は少なく、製作はまさにゼロからのスタートですが、伝統の技を次世代に伝えるために新たな一歩を踏み出そうとしています。

 

 

手仕事とはゆかりのない、ごく普通の一般家庭に生まれる

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私が生まれたのは福井県越前市。越前和紙や越前打刃物があって、伝統工芸が盛んな地域として知られていますが、親が伝統工芸に携わっていたわけではなく、ごく普通の家庭で育ったので、工芸品には特に親しみはありませんでした。

高校は普通科を卒業しましたが、子どもの頃に漠然と抱いていた”ものづくりへの情熱”が大学進学時に再燃し、理工学部に進みました。

建築と機械の学科があってどちらにするか迷っていたとき、ふと小学校の卒業文集を開いてみたのです。すると、将来の夢の欄に「機械の設計をしたい」とあったのを発見しまして、「そうだ!」と思い出し、「子どもの頃の夢をかなえるんだ」との思いで機械制御工学を専攻したのです。

 

 

建設機械メーカーで設計開発として7年間のサラリーマン生活

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大学卒業後は念願かなって建設機械メーカー(香川県高松市)に入社。私が配属されたのは高所作業車(電線工事や看板付け替えなどで使う機械)の設計開発でした。一番大きいのは50メートルくらいあります。司令塔的な仕事で、仕様を決めて図面を作成するなどしていました。社内で仕様を決めてから完成するまで、1〜2年くらいかかります。

しかし、入社当時から「何か違うかも」との思いがありました。

私は設計担当ですので、実際に機械を作る工程には携わりません。現状の仕事と、ものづくりへの想いの間で違和感が出てきて、「自分の手で何かを作り出したい」という願望がふつふつと沸いてきました。

そんなとき、たまたま家具を作る工場を見学する機会があって、「こんな風に自分の好きな物を設計し、自分の手で作ってみたい!」と気持ちが燃え上がってしまい、7年間お世話になった会社を退職することにしたのです。

 

 

長野県の職業訓練校で木工を勉強、越前指物工芸で修行積む

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「さて、どこで修行しようか」と木工作家のような仕事ができる学校を探していたのですが、ほとんどありませんでした。

ようやく長野県の職業訓練校「県立上松(あげまつ)技術専門校」の存在を知り、応募。無垢の材料を使って家具作りを教えてくれる学校で、人気がありました。当時の倍率は3倍くらいでしたが、何とか入学することができました(最近では倍率が7倍になり、さらに人気が出ているようです)。全国から生徒が集まってきていて、サラリーマン経験者も多く、8割くらいが大卒の人でした。

1年間勉強して卒業しましたが、作家のような仕事を受けたりすぐに独立したりするのはまだまだ難しいと思っていました。それで食べて行けるのかも不安で……。

まだまだ自信がなかったので、さらに修行を積むためにオーダー家具メーカー(香川県高松市)に入社。無垢の家具だけでなく、フラッシュ家具(化粧合板、ポリ合板など無垢の材料ではない建材で作られる家具)も作ることができれば、仕事の幅が広がると思ったのです。こちらで4年間お世話になった後、地元に里帰りして職人の道を歩もうと越前市に戻ってきました。

当時、越前市では伝統産業の「後継者育成事業」を行っていました。2年間は修行者に越前市が給料を支援し、技術は地元の事業所が教えるというシステムです。こちらに応募し、私は「越前指物工芸」で修行生活をスタートしました。

 

 

新しいデザインにトライ!型にはまらぬ親方との仕事で成長

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私の親方は職人気質な反面、新しいデザインも積極的に取り入れるのが好きな人でした。建具の中に炭をセンス良くあしらったり……本には載っていないような、型にはまらない刺激的な仕事を間近で見ることができました。親方は地元の建具業界ではよく知られた有名人で、これまで数々の受賞歴もあります。

修行当初は工場の建具をいろいろ作らせてもらいました。普通の建具では面白くないので、趣向を凝らして「無双窓」を入れたりしました。

親方と一緒に手掛けた仕事はどれも勉強になるものでしたが、なかでも想い出深いのは、総ケヤキ造りのお屋敷の仕事で、帯戸を作ったことです。厚み15mm、幅1メートル、高さ2メートルもある1枚の鏡板(間仕切り板)を4枚製作。材料費だけで1000万円近くかかっていましたので、絶対に失敗できない仕事でした。緊張して、常に変な汗をかいていましたけど、完成することができたのも親方のご指導のおかげです。

越前指物を2年間学び、2012年、越前市内に、無垢材の家具や建具から小物まで、木に関するものを幅広く製作する「Furnitureholic(ファニチャーホリック)」を設立。お客様のオーダーやライフスタイルに合わせた製品を提供しています。日本の家屋、特にアパートやマンションなどの集合住宅では、天井が低い間取りが多く見られます。そういった条件下では、実用的な背の低いダイニングテーブルを作り、広々とした空間を演出。お客様からは「テーブルを置いたら狭い部屋が広くなった!」と喜んでもらっています。

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伝統工芸品に指定された”越前箪笥”の良さを伝えたい

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2013年(平成25年)12月26日に越前箪笥が経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定されました。

越前箪笥は、江戸時代末期より越前市などで製造されていました。箪笥の伝統工芸品は各地にありますが、越前のものが一番古いといわれています。しかし、これまで年代の特定ができず、国の指定が見送られてきた背景がありました。このほど、文政2年(1819年)に製作されたことが分かる越前箪笥がようやく見つかり、晴れて伝統工芸品として指定されるに至ったのです。

越前箪笥の特徴は、「金物(鍛造)の装飾」「ケヤキやキリの木地を使った指物技法」「天然の漆による塗装」です。特に、金物の装飾は独特で、箪笥の角を保護するため(傷めないため)に取り入れられました。細部にこだわりがあり、「菊座」というのがあります。

また、金物の装飾で面白いのは、必ずハート型のデザインが入ってるところ。金具の部分をよく見てみると、ハートがあるのに気づくと思います。

しかしながら現存するものは少なく、伝統の技を次世代に繋ぐためにも私が新しく作ることで、越前箪笥の良さを伝えていかなければなりません。

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芸術作品として飾るだけではなく、孫の代まで愛用されたい

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こうした時代箪笥の木地製作を以前から手掛けてはいるのですが、越前箪笥は木工の指物技法だけでは仕上がりません。

金具の製作、取り付け、塗装まで幅広い技術が求められます。しかし、私はまだ一連の仕事については未経験なんです。ですから、完成品の在庫はもちろんありません。現存する越前箪笥や古い書籍を参考にしながら、これから試行錯誤をしてゼロから作っていくしかないのです。

箪笥金物の専門職人も昔はいましたが、今では人数も少なく、今後は私が作っていくしかありません。

越前箪笥はまだまだ認知度の低い箪笥ですが、金具の造形の美しさ、プレスでは作れない構造、シンプルさなど、他の時代箪笥と見比べてみれば一目瞭然の素晴らしさがあります。木部と金物のバランスが非常に良い箪笥です。金物の形にも、それぞれ意味があり、奥深いのです。

私はこれから越前箪笥を作るにあたって、昔の姿を再現するだけでなく、今のライフスタイルに合い、必要とされる箪笥を製作したいと思っています。芸術作品として飾って置くのではなく、お客様に長く愛用される箪笥にしたいのです。できれば、お客様のお子様、お孫様の世代にまで残せるものに仕上げたい。

お客様のニーズに合い、お客様に寄り添う製品を世に出すのが夢です。その中に遊び心として、自分でしかできない「からくり引き出し」を作って”楽しい越前箪笥”を手掛けたいです。

新しい挑戦ですので、サポーターの皆様のご支援をいただきたく、よろしくお願いいたします!

 

 

越前箪笥の作り方「8つの工程」

1. 原木製材、乾燥
2. 図面引き、木取り
3. 幅はぎ、墨かけ、寸法決め
4. 組手加工、仕上げ削り、仮組
5. 本仕上げ削り、下塗り
6. 本組
7. 木地調整、下地塗り、中塗り、上塗り
8. 金具取り付け

 

 

特徴的な越前箪笥の金具「どう作る?」

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まず、打ち伸ばした鉄板を切り分けて、火床で打ち伸ばします。次に、肌を整えた鉄板に型紙を貼り付けて切断し、やすりを使って面を取ります。

そして、つまみなど要所要所の鋲に、菊や蓮花の模様を刻んだ座金を取り付けます。

最後に、金具に熱を加え、生糸で焼き付けを行って仕上がりとなります。