日本の伝統行事を支える際物師として、江戸の文化を伝えたい

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水門俊裕(すいもん・としひろ)/羽子板職人(際物師)

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1964年、東京・浅草生まれ。大学卒業後、旅行会社で働いた後、羽子板や節句人形などを扱う水門商店の跡継ぎに。幼い頃から家業を手伝い、現在5代目として活躍している。


江戸時代から日本の伝統行事を支え続ける浅草の職人

東京下町・浅草生まれ、代々続く「際物屋」の跡継ぎとして羽子板などを製作する際物師です。
際物師とは、日本に伝わる伝統行事に売る品物を作る職人のことを指します。羽子板のように女の子の成長を祝う飾り物、三月のひな人形、五月の節句人形などです。

小学生くらいから、父親の家業を手伝っていました。
まだ遊び盛りでしたので、人形に使う金箔(きんぱく)が好きだったわたしは、鉛筆に金箔を塗って筆箱の中身を金ぴかにして学校に持って行き、みんなを驚かせたこともありましたね。
まあ、とにかくやんちゃな子ども時代を過ごしました。

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そんなわたしも大学に進学してからは、勉強のかたわら、週1回または隔週ペースで本格的に修行を始めました。
当時70代後半の大ベテランである師匠数名に就くかたちで、羽子板つくりを教わったものです。
わたしを育ててくれた師匠たちは、残念なことに現在はほとんどの方がお亡くなりになってしまいました。

 

 

下町の職人の高齢化、若い職人が出てきて欲しい!

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浅草歳の市の羽子板組合は年々減っていき、今では30社ほど。職人の年齢は40代〜75歳くらいですかね。20代はいません。

30年続けているわたしでも、若手と言われる部類に入るほど、下町の職人の高齢化は進んでいます。
若い職人が欲しい!だけど、なかなか継ぐ人がいないのが現状です。

職人の世界は今も昔も辛抱が必要なのです。
辛抱っていうのは何かというと、売れる作品を作るまでには時間がかかるのです。どんなにセンスのいい職人だって、一朝一夕ですぐに客がつくことはありません。
上手になればお客はつきますが、上手になるために辛抱が必要なのです。

女の子の出産祝いや成長を祈るために、羽子板を買われるお客さんは多いです。
一方で、歌舞伎が好き!日本舞踊が好き!など趣味で購入される方も年々増えてきています。
外国からのお客様は、歌舞伎の隈取りの絵に一目で気に入り、高い値札の作品でも即決即買される方もいます。

 

 

シャレ文化「羽子板」には一つ一つストーリーがある

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わたしは男性の歌舞伎役者の作品を得意としていますが、羽子板には一つ一つストーリーがあります。
たとえば尊敬する義経のために働く忠義の篤さを表現した弁慶の作品のほか、歌舞伎のお話などを題材に作っています。
また、昔のお客さんには、花魁の羽子板を旦那さんに買っていく人もいましたね。これは、江戸の吉原で最上位の高級遊女である花魁の羽子板を家に飾っておけば、自分の旦那が夜遊びせずに帰ってくるからというシャレの効いたものです。
こんな風に、羽子板には一つ一つ意味のあるストーリーが背景に込められているのです。

下町の職人は強烈な人が多いけど、人情に厚く、辛抱に耐え、面白い人たちが文化を築いています。
伝統サポーターズでの情報発信、サポーターとの交流を通して、江戸の粋な伝統文化を伝えていきたいです。

 

 

インタビュー

えっともう20年くらい前になるかなあ。

独り立ちっていうか、親父が具合悪くなって、できなくなったぶんだけやってた。職人さんもいたから。あのほら、下職がいるわけですよ。専属の職人さんとか。その浅草の歳の市の組合は全部で30社弱ですね。

習いに来る人はいますけど、やっぱり長続きはしないし、辛抱しなきゃいけないところは難しいでしょうね。

去年は浅草歌舞伎で若手の羽子板作りました。5〜6年とか7〜8年前も作りましたね。新派の水谷八重子さんとか波乃久里子さんとか。亡くなった勘三郎さんのお姉さんですよね。

襟がやっぱり難しいんで、斜めにしてみて襟のところが一直線にきれいにかまぼこ型になっていて、押絵が一直線にいっているんであればうまい人ですよね。

縁起モンなんでこの作り方ってのを見せると、末広がりになっているので富士山のような形になっているでしょ。

浅草の歳の市は趣味で買う人も結構いらっしゃいますよね。歌舞伎が好きな方とか、日本舞踊やっている方とか。

作っていて面白みがある、顔の表情が多いっていうことですかね。隈取りがあったりだとか、あと動きがあるんですよね。例えば悲しい場面もあったり、怒った場面もあって、笑う場面もあるし。それがかなりいいという感じですね。

ことばの解説
下職:親方などの元で仕事を手伝いながら働く職人のこと。

浅草の歳の市:毎年12月17〜18日に浅草寺で開かれる、縁起物を売る露店が集まる市場のこと。今では羽子板の市場として江戸時代からの名残を継承している。

押絵:小さなパーツを組み合わせて一つの羽子板を作っていくこと