8代続く建具職人、木の特性生かす伝統建具で“自然の知恵”を感じてほしい

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小清水茂(こしみず・しげる)/建具職人

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創業150余年の老舗建具店「建具の小清水」代表。寺社仏閣、公共施設から個人邸まで、あらゆる建築物の建具を作る。現在は、建具業の他に、建具の技術を応用したインテリアの製作にも力を入れている。

ホームページ
http://www.tategu-koshimizu.com/
Facebookページ
https://www.facebook.com/tategu.koshimizu.nature.and.human

表彰・経歴
1984年 二宮町商工会優良事業所表彰
2011年6月~2013年5月 神奈川県建具協同組合平塚支部長
2014年 神奈川県建具協同組合より感謝状を授与


▲多様な組子文様、彫刻を施した最高級レベルのらんま
▲多様な組子文様、彫刻を施した最高級レベルのらんま

古来より日本人の生活に密着し、身近な存在であった建具。建具とは「建築物の空間を埋めるもの」であり、ドアや窓、古くはふすまや障子などを指します。今では障子がない家も多いので、若い人にとっては聞き慣れない言葉かもしれません。

私が住む神奈川県中郡二宮町は、小田原城の城下町に近いこともあり、昔から職人が多い町として栄えてきました。しかし、住環境の変化によって建具の需要は徐々に失われ、建具職人も年々減り続けています。私が参加している神奈川県建具協同組合も、全盛期は600社以上が在籍していましたが、現在では約100社にまで減ってしまいました。

▲不燃性ワーロンを用いた障子
▲不燃性ワーロンを用いた障子

このままでは、建具はもちろんのこと、先人から受け継いだ知識と技術も廃れていってしまう。そうした状況を打開するために、あらためて建具の魅力や、技術を多くの人にお伝えすることに加え、今まで培ってきた技術を応用した、新しい建具の形をお見せすることができればと思います。

 

 

手間を惜しむな 15歳からたたき込まれた技術と誇り

▲工場の様子
▲工場の様子

建築業8代、建具業5代 、古くから彫刻師や宮大工として建築業・建具業をなりわいとする家系で育った私は、長男だったこともあり、中学卒業と同時に職人の道へ入りました。これはもう決まっていたと言いますか、そういう時代だったということですね。でも内心は、絶望感でいっぱいでした。だんだんと木造建築から、コンクリートやスチールに移り変わっていく様を目の当たりにしていましたから、建具屋として生きていくことへの不安は、どうしてもありました。特に、当時地元の二宮中学校がスチールに変わったのも印象的でしたね。

▲組子コースター麻の葉製作中画像
▲組子コースター麻の葉製作中画像

当時は先代の他に5人の職人が在籍しており、その人たちが私の師匠となって、ものづくりのイロハを教えてくれました。最初は先代に「仕事を見ていろ」と言われ、そのうち建具を接合するための穴である「ほぞ」の穴あけをやるように言われたんです。初めて任された仕事でしたから、この穴あけだけは誰にも負けないようにやろう思って、必死に練習していましたね。先代からはよく「手を動かせ、体を動かせ、手間を惜しむな」と言われ、周りの先輩職人からは「これはダメだ」「こんなやり方じゃない」と、日々叱咤(しった)激励を受けて、与えられた仕事を、とにかくがむしゃらにこなす日々が続きました。 まだこのころは仕事もたくさんあったので、忙しさで気を紛らわせていたのでしょう。

「手間を惜しむな」という言葉は、初代から我が家に言い伝えられている言葉で、最高の作品をお客さんにお届けするべく、努力を怠るなという意味が込められており、小手先の技術だけではなく、職人としての魂もたたき込まれたように思います。

▲香図組子の仏壇
▲香図組子の仏壇

それでも一通りの仕事を覚えるまでに約5年、納得のいく仕事ができるようになるまで30年はかかったでしょうか。というのも、私たちの仕事は、生きている木を使っています。技術力は練習によってある程度高めることができますが、材料である木を見極める目は、長年の経験が必要なんです。作るものや、使う場所によって、環境に合わせた最良の木を選ぶ。この目を確かなものにするには、数え切れない程の木を見て、触れて、自分の体に染み付かせるしかないんです。

そのため、仕事を楽しめるようになったのは、ここ数年になってからなんです。それまでは気持ちに余裕もなく、お客さんの期待に応えられているかどうか、不安も多かったですね。

 

 

日本の気候に順応 建具は美しさと機能性を兼ね備える

▲夏障子
▲夏障子

建具とは寺社仏閣、公共施設から個人邸まで「あらゆる建築物の空間を埋めるもの」です。この建具の魅力は、建物の空間を美しく埋めると同時に、建物の雰囲気を演出するところだと思います。建具が入ることで、表情が生まれる。障子を見て、心が穏やかになったり、ふすまのスーッと閉じる感覚、その静かで凛としたたたずまいは、日本の建具にしかない魅力であると私は考えています。

▲上部が亀甲の組子文様の猫間障子または雪見障子、下部がガラス戸になっていて上下スライド可能
▲上部が亀甲の組子文様の猫間障子または雪見障子、下部がガラス戸になっていて上下スライド可能

今では少なくなりましたが、昔の人は、材料やデザインなど、建具にとてもこだわる方が多かったです。そうしたこだわりの建具には、使う人の愛着も湧いてきます。私のところには、古くなった建具の修理やリノベーション(改修)の依頼もやってきます。

当時と同じ装飾用の金物が今では生産されていないことが少なくないため、お客さんの理想を叶えるために、金物を探し回ることもあります。しかし、どれだけ苦労をしたとしても、完成した建具を見たお客さんから「ありがとう!」「助かりました!」と、感謝の言葉をいただけた瞬間に全て報われますね。このときが一番嬉しい瞬間であり、建具職人という仕事を誇りに感じます。世代を超えて、思いをつないでいく。これも建具の魅力の一つではないかと思います。

▲多様な組子文様を施したはめごろしのらんま
▲多様な組子文様を施したはめごろしのらんま

また建具は生きている木の特性も存分に生かされています。木が湿気を吸収、放出することで、部屋の湿度を調整してくれることも大きな魅力の一つ。高温多湿な環境である日本において、これ以上ない、まさに自然のエアコンといえるでしょう。

便利な機械があふれる現代において、こうした素材本来が持つ特性を、多くの方が忘れてしまいがちです。あらためて、建具を通じて、生きた木の有用性、素晴らしさを感じていただけると幸いです。

 

 

建具の小清水と職人としての今後 新しい試みを積極的に

▲桜文様の組子ランプシェード
▲桜文様の組子ランプシェード

建具の再興を目指す中で、培ってきた技術の応用により、新たな道も模索しています。

例えば、インテリア用のミニチュア建具や、組子の技術を生かしたランプシェードやコースターなど。より建具や木を身近に感じていただき、使う人の暮らしや心を豊かにするような作品を目指しています。

こうした作品を通じて、建具を見直すきっかけにつながってくれると嬉しいです。

▲桜文様の組子ランプシェード
▲桜文様の組子ランプシェード

私はどこまでも職人なんです。この世界一筋でずっと生きてきた人間ですから、まだまだ見識が狭いと痛感します。だからこそ、さまざまな人の意見や考えを聞いて、今後の作品づくりに生かしたいと考えています。そのため、サポーターとなってくださった方々と、意見交換をする場としても、伝統サポーターズを活用していけたらと思います。

これからも建具文化を次の世代へ伝えるべく、お客さん目線のこだわりを実現できるよう、一層の努力を重ねてまいります。

 

 

予想外だった息子の家業継承 二人三脚で地域再興を

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大学の土木科を卒業後これまで上下水道コンサルタントとして働いていた息子の謙太が仕事を辞め、思いがけず家業を継ぐことになりました。自分の跡を継ぐことに期待を寄せていなかったので、嬉しい驚きです。 彼の学んだことや経験したことは宝です。それらを生かし、まずは建具の啓蒙活動に従事し、ゆくゆくは立派な建具職人として成長していってほしいですね。

東京オリンピック(1964年)の頃は建設需要が急増し、工務店(大工職人)からの注文を右から左へひたすら受注していました。実際の利用者の声を無視した業者がいたのも事実です。数をこなして売上を伸ばすのは重要ですが、木の本来の良さとお客様の要望が調和した建具を作ることこそがお客様にとってベストなライフスタイルを提供できると思っております。

現在、東京都心などの過度な都市開発の一方で、地方の衰退化・過疎化は大きな問題になっています。私の地元・神奈川県二宮町も例外ではありません。

私の仕事によって地域の再興を促し、地域活性の一助になれば、という気概でいます。皆さまからの応援があれば、さらに力強い支えになります。 一緒に地域を盛り上げていけたらいいですね。