友禅の”ろうけつ染め” ともに伝え盛り上げる、プロデューサーになってほしい

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長田けい子(おさだ・けいこ)/染色作家

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京都の染色工房で「ろうけつ染め」と「友禅」を6年間修業。その後独立、工房かさ音(ね)を開業。着物だけではなく、現在のニーズにあった洋服や、スカーフなどを手掛ける。
賞歴
1991年 伊丹クラフト展入選 三軌会工芸部 佳作受賞
1992年 伊丹クラフト展入選
1996年 京展入選 三軌会工芸部 関西奨励賞受賞
2006年 朝日現代クラフト展入選
2009年 京展入選


image1 (1)日本には、絞り染めや型染めなど、数多くの染め技法が存在しており、主に私が行うのは「ろうけつ染め」と呼ばれる、京友禅でも用いられることがある伝統技法の一つです。筆を使って防染したいところに”ろう”を浸透させ、ろうが染料をはじくことで、その場所が染まることなく、白く染め抜かれるという技法です。

幼いころから絵を描くことが大好きで、20代のときに出会った友禅をきっかけに、染めの世界へ飛び込むことを決意。約6年間、地元京都の染色工房で修業し、図案、下絵、糸目、友禅、ろうけつ染めなど、あらゆる分野を学び、自分の工房を構えました。

しかし私が染めを始めた当時と比べると、着物や染めの仕事を取り巻く環境は、目まぐるしく変化していると感じています。

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特にここ数十年の時代の流れはすさまじく、暮らしの欧米化が進み、市場には生産効率を追求した安価な大量生産品があふれたことで、着物需要は減少の一途をたどり、着物を染める昔ながらの染屋も、徐々に京都の町から姿を消していきました。もう今では数えるほどしかありません。

京都には素晴らしい技術を持った職人が大勢いるのに、このままでは伝統も、技術も失われてしまうかもしれない。これを防ぐためにも、今まで培った技術を応用し、新しい仕事、新しい需要を生み出すことが必要なんです。

 

 

会社員からの転身 大好きな絵を仕事にできる喜び

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昔から絵を描くことが大好きで、画家になりたいと考えたこともありました。大学を卒業してからは、会社員として仕事をしながらも、大好きな絵は続けていて、日本画の教室にも通っていました。

実はこのときの日本画の先生が、着物に絵を描く友禅の職人でもあり、初めて友禅に触れ、「こういう仕事があるんだ!」と知るきっかけになりました。

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画家は生活が難しいかもしれないけれど、これなら職人として自立して仕事ができる。なによりも、大好きな絵を描いて生活できることへの喜びを胸に、転職を決意。
せっかくなら全部自分でできるようになりたいと思い、図案から染めまで、あらゆる工程を担う京都の染色工房へ入ることになりました。

毎日朝の8時半から夜10時まで働いて、給料は月に5万円ほど。図案を考えたり、色挿しをしたり、下絵を描いたり、やることは山ほどありましたが、それでも自分の作ったものが売れていくことがとても嬉しく、あっという間の6年間でした。

この忙しくも充実した日々が、今の私の土台となる技術を与えてくれたのだと思います。

 

 

着物だけじゃない 伝統技術を応用した新しいものを

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独立して今の工房を構えるようになってから現在に至るまで、洋服やスカーフ、タペストリーなど、着物以外にもさまざまなものを染めるようになりました。修業中は、お客様が求める色や柄を作ることがほとんどだったので、自分で自由にデザインすることや、思い描いたものを形にする機会はあまりなかったのです。

現在も他に染めたいものがたくさんあって、手仕事なので時間がかかってしまいますが、染めの仕事をしている瞬間は楽しくて仕方がないですね。

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また私が独立する前から、着物の注文が減ってきている空気を肌で感じていましたから、ただ着物だけを作り続けても、未来につながっていかないと思ったんです。とは言っても、自分が作りたいものを作っているだけでは、自己満足に終わってしまいます。

デザインやサイズ、機能性、販売方法など学ぶ点はまだまだ多いですが、より多くの方に作品を見ていただき「やっぱり手作りっていいな」と思ってもらえるよう、これからも努力していきます。

 

 

プロデューサーと一体となったものづくりがこれからは必要

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昔に比べ、着物の需要が薄れてきたように、時代によって求められるものは移り変わっていくことと思います。残念なことに、多くの伝統工芸が、そうした時代の流れに取り残されつつあります。

冒頭で述べたように、京都には素晴らしい技術を持った職人が大勢います。しかし職人はものづくりの専門家であって、企画のプロデュースやコーディネートについては、私含め不得意な方が多い。

そのため古くから伝わる素晴らしい技術を応用した新しいものづくりには、プロデューサーといった存在が必要不可欠なんです。

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この事実をより多くの人に知っていただき、ともに京都の伝統工芸を盛り上げようと考えてくれる、プロデューサーさんを見つけたいです。そしてさまざまなアプローチから、新しい仕事と需要を生み出し、伝統をつなげていきたいと考えています。